おかあちゃんの弁当。

子どもの頃、遠足や運動会…お弁当を持っていく機会があるたび、母に弁当について色々と注文をつけた。「ウィンナーはタコさんかカニさんにして」「リボンがついたチューリップの唐揚げ」「おにぎりは海苔がベチャっとしてないのがいい」…etc。
母にしてみれば次から次へと注文つけられて面倒だっただろうなぁ…と、毎日食事を作る立場になってみて(自分が言ったこととはいえ)本当に「お疲れさまでした」とねぎらいたいキモチでいっぱいになる。
あれこれ無理難題を言っても、母はかなり頑張ってくれた。大きなショッピングモール*1に行った時に可愛いピックを探してきてくれたり、ウィンナーやリンゴの飾り切りもかなえてくれた。

でもひとつだけ、最後まで反対されたことがあった。
「リボンがついたチューリップの唐揚げ」だ。

母の作る唐揚げは、鶏モモ肉で時おり真ん中にクルッと海苔が巻かれているようなシンプルなものだった。醤油系の下味がついていたり、塩胡椒だったり、味は文句なしだった。でも友だちが食べている…持ち手(骨)にリボンがついた可愛らしいチューリップの…を見ると、うらやましくて仕方なかった。何度も「おかあちゃん!チューリップの唐揚げ!私もあれがいい!」とおねだりした。
母は「いつもの唐揚げじゃダメなの?」「今日のおいしくなかった?」「チューリップ、作ってもいいけど、あんまりおいしくないかもよ?」と私をさとすように言った。
どうしてもあの輝かしいリボンつきがおいしそうに見えた。まずいわけない!って思ってた。

「今度のお弁当で入れてあげる」…母が根負けして承諾してくれた。

遠足だったかなぁ…お弁当箱のふたを開けると、確かに私のお弁当箱にもチューリップの唐揚げが入ってた!小さなリボンがついたのが何本か並んでる!!
喜んでかじりついた…夢が叶った瞬間だった。
…でも、いつもの唐揚げの方が食べやすくておいしかった。*2母の言うとおりだった。

今になれば、手羽中や手羽元は皮や筋が多かったり、可食部分がモモ肉のそれより少ないし、母がためらった理由がわかる。他のおかずも然り、見た目よりおいしさを考えてくれていたんだなぁ…と思う。まさに「親の心子知らず」だった。
ずいぶんと年月が経ってしまったけど、いつもおいしいお弁当を作ってくれてありがとう。

*1:今ほど100均もなかったし、近所では実用重視のそれしかなかった

*2:チューリップの名誉のために言っておくが決してまずかったわけではない。