<ぬかにクギ>

「激昂している人には、何を言っても無駄だ」としみじみ思う。


言葉通りに、顔を赤くして大きな声で喚き散らしている人だけでなく、
表面上は冷静を装っていても、他人の言うことに耳を傾けられなく
なっている人もまた然り。


「怒り」という感情は凄まじいものだ…と思う。
あらゆる思考の柔軟さを失い、物事に対する視野を狭め、あげく
「人にして人に非ず」とすら思えるような言動を導き出してくる。


「落ち着いて」「よく考えて」等々、何を言っても一旦怒りという感情に
支配されてしまった人からは、たいてい「充分落ち着いてる。考えてる」
という返事しか戻ってこない。洗脳された状態にも似ているというか。
だから、もし何か意見しようと思うのなら、刃物を振り回している人に
丸腰で近づいていくくらいの覚悟が必要だ。
しかも、当人は相手を傷つけてしまってもそれに気付きもしないか、
「近づいてきたお前が悪い」くらいのことを平気で言うだろうことも
視野に入れて、だ。


眠れない人を眠らせる睡眠導入剤があるように、
怒っている人の怒りを静める薬があったらいいのに。
クギを刺してやろうにも、ぬかにクギにしかならない。